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【書評・レビュー】『満願』米沢穂信著 第27回山本周五郎賞受賞 2015本屋大賞ノミネート作品 感想・あらすじ

最終更新:2018年8月19日
『満願』著者:米沢穂信(よねざわ ほのぶ) 出版:新潮社 第27回山本周五郎賞受賞 ミステリーランキング3冠(2015年版「このミステリーがすごい! 」第1位 2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位 2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位)2015年「本屋大賞」ノミネート作品

短編ミステリー6作品で構成され、短編でありながら緻密なロジックはしっかり折り込まれ、登場人物それぞれの切実な思い・思惑に込められたストーリー展開とエンディングは秀逸だ。山本周五郎賞受賞に際し、選考委員の満場一致での受賞決定であったことも、なるほど頷ける作品が仕上がった。


満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)



★★★★★

短編6作に登場する人物達は、それぞれに自分が大切にしているもの(していたもの)を守るために、自身の信じる価値観の下、人を殺めたり、自らを傷つけたり、窮地に追い込まれたりしている。

短編なので、6編を一行あらすじでご紹介しておきたい。

「夜警」では、臑に傷を持つベテラン警察官が新人警察官を指導する中、職務中に起きた事件をベテラン警察官の回顧に視点で描き

「死人宿」では、再開した昔の恋人と主人公がよく「自殺者」が出るという宿を舞台に主人公の「推理」と「心理」の進展を見事に描き

「柘榴」では親子、母子の間に思いも寄らないズレが生じていた結果驚くべき結末を描き

「万灯」では、入社以来、仕事一筋で突っ走ってきた海外商社マンが新たなプロジェクトの成功のために途中から一変するスリル満点の物語を描き

「関守」では、最近うだつの上がらないフリーライターが都市伝説記事を書くために、訪れた峠の茶屋でのブラックユーモア的サスペンスを描き

表題でもある「満願」では、主人公の弁護士が学生時代の下宿先の婦人が起こした事件の弁護をすることになるのだが、思いも寄らぬ結末を迎えた真相を描いている。




この短編6作には他人が窺い知ることのない深い闇と孤独も同居しており、なぜそういう行為に至ったか?の心理描写とその背景のロジックが綿密に描かれている。

事件を起こした人々にとってその必然性も随所に巧くさりげない形で、ちりばめられてもいる。

米沢穂信氏の人物の心の闇と孤独感の描写力は、連城三紀彦氏の再来か?と評判になっている所以がよく理解出来る。

余り大掛かりな物語の設定はせず、巧緻を極めたトリックも使わない。

世間一般なるものと登場人物の思いがどこかで僅かにズレを生じ、そのズレが人知れず静かに広がって行き、人を殺め、自分を傷付ける。

その僅かなズレと謎に読者も気付かない内に、物語の世界に同化している。

そのズレがどうしても気になり、物語の世界に引き込まれていく。

引き込まれた末に驚くべき事実や結末が待っている。

6つのそれぞれ毛色の違う短い物語の中に、ちりばめられた抜群の心理描写力と、多彩なロジックの織り交ぜ方は、非常に巧みで、米沢穂信氏の描く力を強く感じさせられる魅力的な短編集となっている。

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