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【書評】『私の恋人』上田岳弘著 第28回三島由紀夫賞受賞作品 斬新な視点と壮大な世界観!

『私の恋人』 著者:上田岳弘 出版:新潮社 初出「新潮 2015年4月号」レビュー・あらすじ・論評・感想

2015年 第28回三島由紀夫賞受賞作品。著者の上田岳弘氏は『太陽』で第45回新潮新人賞受賞、同作は第27回三島賞候補にも。二作目の『惑星』では第152回芥川賞候補。そして三作目の『私の恋人』で第28回三島賞を受賞した。

「これからの純文学の世界をリードして行ける才能が現われた」読了後の作者上田岳弘氏への私の評価は簡潔にこの一文だった…

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あらすじ

10万年もの時を超え、3人の「私」1人目の私は旧石器時代の洞窟で、現代社会・科学技術を予見し当時の文字で壁に書き残す。2人目の私はナチス収容所で1人目が思い描いた理想の恋人を思念しつつ、自分の運命も知りながら迫害に抗うことを止める。果たして現代に生きる3人目の私に10万年の時を超えた「理想の恋人」に出会えるのか?

人類は地球1周目の旅を後に先住民族と呼ばれる人々がが地の果てまであまねく到達し、定住した。

2周目の旅は時に適者生存の名の下に、文明を持つ者が先住民を迫害、その地を制覇する。
先頭を走らないと、支配される側に回ることを知っていた人類は、支配されないために純化・画一化を進め、時に多くの人間の尊厳を剥ぎ取る行為に及び、自分達が優位に立つための価値観とルールの構築を競い合い、その適用範囲を広めた者が勝利を収めた。

1945年に2周目の旅を終え、Windows95が発売された頃に本格的な3周目の旅が始まった。科学技術を格段に進歩させ続けた人類は早晩「彼ら」を出現させることになりそうなのだが「彼ら」とは何か?
果たして人類は4周目の旅を担えるのか?

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論評

10万年の時空を行き来する斬新な視点から、現代も繰り返される民族、国家、宗教間の争いに対し、グローバル化した世界のルール、経済観に対し、そしてもの凄いスピードで広がり、発展を見せる非現実世界(IT、ネット空間)に対し、壮大なスケールで読む者の価値観を揺さぶり続ける筆致に圧倒された。

私は余り「純文学」と「エンタテインメント」のジャンル分けをすることが好きではないのだが、上田氏の作品は思想・哲学的要素を含み、まさにニーチェの晩年の遺作に残されていた『権力への意志』の「ニヒリズム」(肯定的虚無として)を想起させ、何度も行間を読ませる辺りは「純文学」らしい作風と言えよう。

物語の進行は主人公の「私」が坦々と事実を語ることで進められ、その事実は断定的ではあるが、事実に対して読者によっては180度違う思惟をさせる余白を残していることは、とても好感が持てる

『惑星』の時も見られた斬新な手法は、改めて論文と小説(物語創作)の違いを浮き彫りにし、文学の良さを再認識させるものだ。


上田岳弘氏はデビューからの三作すべてが何らかの「文学賞」にノミネート、若しくは受賞されており、今後の活躍が本当に楽しみな存在だ。

(『私の恋人』単行本発売中です)

(第28回三島由紀夫賞 選考委員選評は「新潮7月号」に掲載されています)


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