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【書評】『流』 東山彰良著 第153回直木賞受賞作品! レビュー・あらすじ・感想

最終更新:2016年10月8日
『流』(りゅう) 著者:東山 彰良(ひがしやま あきら) 出版:講談社 第153回直木賞(平成27年上半期)受賞作品!

東山氏は台湾出身の作家でこれまでにも推理小説作品で「大藪春彦賞」等を受賞。直木賞候補となった今作『流』は、推理小説の要素を含みながら、自身の祖父の国境を越えた闘いと家族・親族の紐帯、そして祖父の死の解明、自身のルーツを辿りつつ、1970年代の台湾を舞台にした「大河小説」「青春小説」の要素も含んだスケールの大きな作品だ。

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流


妻や息子、娘、他人には厳しい祖父だが、孫である主人公、葉秋生(イエ チョウシェン)には優しかった祖父が、1975年の台湾、国民党の偉大なる総統、蒋介石が死んだ翌月に何者かによって殺された。

祖父、葉尊麟(イエ ヅゥンリン)は、大陸山東省出身で、匪賊、やくざ者として大戦中、国民党の遊撃隊に属し、共産党に属す多くの村人を惨殺した。

日本が敗戦により大陸から撤退すると、国共内戦は激しさを増し、徐々に追い詰められていく国民党に属していた、祖父は何度も死線をかいくぐり、最後は命からがら家族と仲間達は台湾へ渡る。

台湾に渡った葉一家と兄弟分は台北に住み、祖父は布屋を始め、一家と兄弟分の家族の面倒も見る親分肌で、両親を内戦で亡くした兄弟分の息子も自分の息子として育てる、義理人情には厚い人であった。

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そんな祖父が、一体誰に、なぜ殺されたのか?

自身に流れる血のルーツは?

作者東山氏は、自身を投影したと思われる当時17歳の主人公、秋生の祖父殺しの犯人捜しを描きながらも、当時の台湾の世相・文化、家族・親族、祖父の兄弟分との紐帯、秋生の高校生活や仲間との友情、淡い恋物語、そして大陸を渡った自身のルーツを遡るという様々な要素をふんだんに取り込みつつ、見事に作品として完結させた。

まさに推理小説というジャンルの枠に収まりきらない、壮大な大河・青春群像小説とも言える。


蒋介石死去前後の台湾の世相は、日本人の読者には余り馴染みがないであろうし、当時の台湾の置かれた状況や、海峡を渡れば敵地であり、海を隔てた戒厳令状態の緊張感、国威発揚の愛国教育、統制政治の状態にあったことは、私は以前に金美麗女史の本を読んで初めて知った次第だ。

この作品は、その当時の台湾・台北の混沌とした状況や市民の生活も活き活きと描かれ、またいわゆる独特の中国文化や家族制度を知るうえでも貴重な資料とも成り得る。

この当時の台湾を日本語で描いた小説としては、第一級のレベルにあるのではないだろうか。

前述した通り、ジャンルの枠に入りきらないスケールの大きさは、この作品が私小説的要素を含んだ純文学とも言えるため、既に「エンターテイメント」と「純文学」の枠も超えている。

東山氏が歳月を掛けて紡ぎ上げた壮大且つ深淵な作品『流』は、現代日本文学に新風として颯爽と現われた「一大傑作」として、文学史に名を残す作品になりそうだ。


※『流』は第153回直木賞受賞作品となりました!
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(154回直木賞候補作品紹介・寸評はこちら)
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(第154回芥川賞候補発表記事はこちら)
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