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【書評】『等伯』 安部龍太郎 著 第148回直木賞受賞作!あらすじ・感想・レビュー

更新:2017年10月29日
著者:安部龍太郎 『等伯』 上下巻 出版:文藝春秋社 第148回直木賞受賞(平成24年度上半期) 2015年9月文庫化

戦国・安土桃山の世を権力者、運命に翻弄されながら、単身で狩野派、狩野永徳と絵画で天下を競い合った絵師・長谷川等伯の生涯を描いた渾身の一作。等伯が身命を賭して描きあげた代表作「松林図屏風」は当時も高い評価を受け、現在でも国宝として現存する。

天下に名を轟かせるまでの等伯の波瀾万丈の人生を、安部氏が等伯の心の深淵まで掘り下げ、その内面の葛藤や苦悩、悲哀を見事に描き切った、まさに直木賞受賞作に相応しい作品だ。

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(長谷川等伯 「松林図屏風」)




あらすじ

等伯は能登国七尾で、名家畠山氏の中堅の家臣、奥村文之丞宗道の子として生を受ける。

家督は長兄・武之丞が継ぎ、等伯は代々仏画を描く染物商家、長谷川宗清の養子として、長谷川信春を名乗る。(以下、等伯で統一)

養祖父、養父とも日蓮宗の優れた絵仏師であり、等伯もその実力を遺憾なく発揮し、仏画や肖像画の腕前は能登・七尾界隈では高い評価を受けていた。

等伯の絵仏師としての才を見込んだ養父・宗清は娘の静子の婿入りさせ、等伯に長谷川の家督を譲った。

戦国末期、畠山氏は家臣の国人七人衆の叛乱により国主の座を追われ、旧主家再興のために暗躍する兄・武之丞に起死回生の策として有無を言わさぬ命令を受ける。

商家であり、絵仏師としても名を上げていた長谷川家とは逆に、生家の奥村家は主家を失い、没落の一途を辿っており、等伯は後ろめたさも感じていた。

お家再興のためにある使いの役目のために家を留守にしている間に、長谷川家の養父母は七人衆に惨殺され、大切な養父母を失う。それは、画道の師を失うことでもあった。

結局、自分が荷担したお家再興の成否も分からず、長兄も行方知れずのまま、幸い何を逃れた妻・静子と長男・久蔵と共に、故郷七尾を追われ、親子三人は京へ向かうことになる。

京へ上る道中の苦難、まだ田舎者として等伯の名も売れていない京では「絵屋」として糊口を凌ぐ苦しい生活を送りながらも、自身の画道を昇華させるため、専心する。

等伯が名を上げるに連れ、眼前に立ちはだかる狩野永徳率いる狩野派に妨害を受けながらも、絵仏師として寺社の庇護を受け、五摂家筆頭の近衛前久、茶人・千利休、秀吉の代には京都所司代・前田玄以ら当時の有力権力者も味方に付け、長谷川等伯として、その名を天下に轟かせて行く。

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既に当「ゐ太夫のぶろぐ」では書評として、同ジャンルの歴史美術小説として第135回直木賞候補作となった澤田瞳子氏の『若冲』を取り上げた。

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そして、まだ当ブログでは書評を書いていないが、等伯のライバル狩野永徳を描いた作品 山本兼一著『花鳥の夢』


今回の『等伯』が上記二作品と決定的に違うのは、長谷川等伯は武士の家に生まれ、彼の画道は武士道に通じる部分を持ち、そして安部龍太郎氏が描いた作中の等伯は終生、自身が武家の生まれであるという呪縛から、良くも悪くも逃れられないでいる姿を描いている。

旧主家再興のため奔走し、どうしても突き放すことが出来ない実兄・武之丞と、旧主家の姫君である女性との絡みで、等伯は明らかに武士としての、後の世に言う封建制に逆らえない。

そして極めつきは、冒頭でも触れたが、文字通り身命を賭して描いた「松林図屏風」を描く際の苦悩と葛藤、画道を極めんとするその壮絶な姿は、剣の道を究める求道者の様でもある。

安部龍太郎氏は作中で「表現者は孤独である。誰ともちがう、誰にも真似のできない境地をめざして、たった一人で求道の道を歩きつづけなければならない」と記している。

ここには画道があり、茶道があり、仏道があり、武士道がある。そして邪推かもしれないが、これは安部氏自身の小説を描くことへの覚悟でもあると感じている。

等伯が一生背負った、近しい人を失った喪失感と慚愧の念。そして、狩野永徳と狩野派との長い相克。

描こうするから描けない。等伯が無の境地に到達した時、喪失感も慚愧の念も、図らずも憎しみ合った狩野永徳も含めた、今は亡き者までもを投影したまさにその時の等伯の心象風景そのままに、渾身の作「松林図屏風」が完成したのではないか?

その比類無き傑作「松林図屏風」を描くに至った等伯の心の奥底の変遷を、描き切った安部龍太郎氏の力量は、これまた見事としか言い様がない。

既に多くの安部作品を読んできたが、今後は誰を題材に安部文学を表現してくれるのか?楽しみにしている。

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