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【書評】『漁港の肉子ちゃん』 西加奈子著 西加奈子ワールド全開の傑作! レビュー

最終更新:2016年8月9日
『漁港の肉子ちゃん』 著者:西加奈子(第152回直木賞受賞) 出版:幻冬舎 論評・あらすじ・感想

今をときめく「直木賞作家」となった西加奈子さんが描くいわゆる「西加奈子ワールド」と、しっかりと確立されたストーリー性がバランス良く織り交ぜられ、小さな港町に生きる母娘とそこに生きる人々の生活を、娘の視点を通し瑞々しく活写し、読む者を勇気づける素敵な作品に仕上がった。

悪い男(ダメな男?)に何度もだまされ、日本中を流浪し辿り着いた小さな漁港の町。その漁港にある"焼き肉屋"「うをがし」で住み込みという形でやっと腰を落ち着けて定住を始めた母娘。住人同士がほとんど顔見知りの田舎町で、太っていて不細工な母・肉子ちゃんはマイペースで無頓着、自由奔放で、めちゃめちゃ明るい。母に似ず?綺麗な顔立ちで冷静な性格の娘のキクリンは、奔放過ぎる?母を少し恥ずかしく思い、小学校ではクラスの友人関係に思い悩む年頃になった…。

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漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)


西加奈子さんの作品は不思議な世界観を持つ作品が多い。しかし決してそれは不可解なものではなく、何となく毎日を送っている我々の深層心理にあるものに訴えかけ、共感を覚えることも決して少なくない。

『漁港の肉子ちゃん』は西加奈子さんデビュー当時からの不思議な世界観いわゆる「西加奈子ワールド」も盛り込みつつ、ストーリー性、メッセージ性も込められた西加奈子作品の中でも傑作と言って良い物語だ。

この肉子ちゃん(本名:菊子)、若い頃から男にだまされ続け、借金を背負わされ捨てられる人生を繰り返し、それでも人を信じる気持ちを持ち続け、逃げた男を探し求め(借金返済を求めている訳ではない)日本各地を転々とし、やっと流れ着いた北の小さな漁港町に安住の地を見付け、娘のキクリン(本名:喜久子)と漁港に一件だけある焼き肉屋、その名も「うをがし」で住み込み店員としての生活を始める。

北の小さな漁港の町というと、いかにも閉鎖的、排他的なイメージを持つが、肉子ちゃんはお構いなしに「大阪弁」を変えることもなく、何事にもマイペース、他人の目を気にするなんて有り得ない「私は私!」を貫き通し、その憎めない外見と底抜けに明るい性格で、町のみんなから、特に商店街の仲間から本名ではなく「肉子ちゃん」と呼ばれる様になった。

対して娘のキクリンは思春期を迎え、多感な年頃となり「自我」「自意識」を持ち、小学校でも周囲に合わせて「大阪弁」は封印し、意識してその土地の方言を使う。

何とかクラスに溶け込み、その町の子として違和感を持たれない様、キクリンは気を付けて日々を送っている。

そんなキクリンにとって母親である「肉子ちゃん」と一緒にいるところを、小学校の同級生に見られるのだけは避けたい…。


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とは言ってもキクリンにとって「肉子ちゃん」はただ一人の大切な家族であり、母親だ。(ちなみにお互いのこともあだ名で呼び合う母娘)

肉子ちゃんの周囲に流されない「確固たる自分」を持ち、引っ越してきてすぐにあたかも昔から住んでいた様なある種の図々しさも見せながら日々を送る姿にキクリンはどこかしら羨ましさを持っている様もうかがえる。

キクリンの小学校生活は高学年のクラスにありがちな女子グループ間の対立などで、自分の立ち位置や振る舞いの難しさに息苦しさを覚えつつあり、尚更、肉子ちゃんの振る舞いに辟易しつつも、羨ましさを持つのだ。

小さな田舎町での平凡な日々…という舞台設定だとミステリー等のジャンルでないと退屈さを覚えるのでは?と思われがちだが、登場人物一人一人がとても魅力的であり、町の風景も瑞々しく描写され、多感な少女時代を送るキクリンの視点から描かれる西加奈子さんの世界観は、舞台設定の大小などに頼らずとも十分に早く次のページをめくりたくなる作品になる。

前述した「小さな町というと閉鎖的で排他的なイメージを持つ」と勝手に私がつまらないステレオタイプを持ち出したが、西さんは町の「閉鎖性」「排他性」は表現していない。

わざわざその辺りを言葉として表現せず、むしろそういったステレオタイプに対し真っ向から対峙して見せるのも、西作品の魅力でもある。

むしろその「閉鎖性」や「排他性」を持っているのは小学校のクラスでの立場を意識し過ぎているキクリン自身なのではないか?というのが私、ゐ太夫の解釈だ。

一風変わった人が多い商店街の大人達のやり取りを垣間見ながら、成長していくキクリンが「普通にしなきゃ」「周りに合わせなきゃ」と意識し過ぎていた自分に気付き、自分の中の「閉鎖性」「排他性」という殻を破ろうとする時、息苦しさから解放される自分に気付かされる。

この作品は「息苦しさ」や「生きづらさ」を覚える人々への、西さんからの贈り物であり、キクリンを通して自身を見つめ直す機会を与えてくれている。

また本作はストーリー性も一級品のレベルにあるのだが、それを説明するのは野暮になるので、ここでは触れないことにする。

「息苦しさ」「閉塞感」「生きづらさ」を世間や社会、他人のせいにして、自分を殻に閉じ込めていないか?

人はなかなか「肉子ちゃん」にはなれないが、キクリンの様に気付きを実行しある程度「息苦しさ」から解放することは出来るのかもしれない。



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(西加奈子氏「さんまのまんま」出演!)
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(西加奈子著 『サラバ!』 書評・レビュー記事)
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