小説でスポーツ、特に野球モノを描くのは難しいとされてきたが、堂場氏は見事にその定説を覆した。
弱気でコントロールに難のあるルーキー投手が、身売りの決まった球団の最終試合で初先発をする。
8回までノーヒットノーランを続け、9回の20投球を様々な人の思惑や視点から描いた作品だ。
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かつては、人気・実力を伴った強豪チームが今季限りで
IT企業に身売りをするが決まった。
身売り騒動の最中、チーム最終戦を、弱気で制球難の
高校生ルーキーが初登板初先発マウンドを任される。
制球に難がありすぎる故、フォアボールで走者は出しまくるが、
優に150キロは超えてくる「ムービングファーストボール」を武器に
気付けば8回までノーヒットノーランを続けていた。
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野球は1試合に、いや投手の1球ごとに「ドラマ」「筋書き」が
あると思っている私にとって、作品の中で1球1球に対する
様々な人々の思いやそれぞれのドラマが見事に描かれている様は、
堂場氏の描写力、ストーリー仕立ての巧みさと相俟って共感出来る部分だ。
例えば、バックで守る野手の得も言われぬ「緊張感」
「日米野球・3戦目」ノーヒットノーランの試合の
野手達も然もありなんというところである。
身売りされる球団に居て、来季自分・球団はどうなるのか?という
不安を抱えながらも、ノーヒットノーランを続ける若き才能に
複雑な思いを交錯させる監督、コーチ、選手の面々。
来季は自分のチームでは無くなってしまうが、自分の推薦もあって
獲得したルーキーの今後に夢を託すオーナー。
実際の野球でも悲喜こもごものドラマがあり、
選手達にもそれぞれの事情や思いがある。
数万人の観客、テレビ・ラジオを通して視聴するファンも
入れれば一体どれだけの人が、選手の一挙手一投足に注目し、
自分の人生を重ね合わせ、球団・選手への思いを持っていることか。
今、堂場氏の別の作品を読んでいるところだが、
氏が描く人物はそれぞれ「キャラクター」にいい意味でも悪い意味でも
「人間臭さ」を感じることが出来、思わずのめり込む魅力がある。
これからも堂場氏の多くの作品を読んで行きたいし、
多くの魅力的な作品に出会えることに期待している。
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