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【書評】米澤穂信著 『王とサーカス』 山本周五郎賞作家が贈る壮大深淵なミステリー!

著者:米澤穂信 『王とサーカス』出版:東京創元社 感想・あらすじ・レビュー

『満願』で第27回山本周五郎賞を受賞し、ますます「米沢ミステリー」に磨きが掛かかる。2001年にネパールで実際に起きた「ネパール王族殺害事件」を題材にし『さよなら妖精』の10年後の太刀洗万智が大きな事件に巻き込まれながら、自身のアイデンティティを揺さぶられ、葛藤する姿を描きながらも、しっかりとミステリー作品としても両立された大作に仕上がった。

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王とサーカス

『さよなら妖精』の10年後の2001年、太刀洗万智(たちあらい まち)は、勤めていた新聞社を辞め、フリージャーナリスト・ライターとなる。

その記念すべき初仕事として、雑誌編集長からネパールの海外旅行記事執筆の依頼を受ける。

先乗り取材として、予定より早くネパールの首都カトマンズに乗り込むが、万智を待ち受けるのは未だ混沌・雑然としたカトマンズの街と、経費節減のために逗留することにしたその名も「トーキョーロッジ」という安宿と、そこに滞在する少し怪しげな人々。

そして観光客相手に土産物売りをする10歳位の少年サガルと出会い、サガル自ら右も左も分からないカトマンズの案内人を買って出る。

貧しいが故に学校に通っていないが、頭の良いサガルは、何事も訳知り顔で、この街で子供ながらも逞しく生きている。

少しずつネパール独特の文化や生活スタイルを知り、いわゆる観光地の取材も進めて行く万智だが、ネパールを揺るがす大事件に遭遇してしまう。

ここから物語は急展開を迎え、一気にスピード感を上げてくる。

国民の信望が厚かったビレンドラ国王ら複数の王族をディペンドラ王太子がナラヤンヒティ王宮で殺害したという、2001年に実際に起きた「ネパール王族殺害事件」「ナラヤンヒティ王宮事件」と呼ばれる事件だ。

実際に国王の子息であるディペンドラ王太子も危篤状態で、3日後に亡くなっており、その後王位を継いだビレンドラ国王の弟ギャネンドラは国民の評判も良くなく、正確な情報も出ないまま国民は大混乱と疑心暗鬼に陥る。

この事件で騒然とする街の模様、市民が怯える状況から、信ずるに足る情報が出ないことに不満を募らせ、王宮の前に大勢の人が集まり出し、漂い出す不穏な空気を、米沢氏は見事に活写し、読者もその場に引き込まれたかの様に、強い不安を感じさせられる…

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当初、観光・旅行記事執筆のために、カトマンズに先乗りした万智だが、たまたま居合わせたとは言え、ジャーナリストとして、この大事件を放っておける訳がない。

なぜ、国王は殺されたのか?本当に実の息子ディペンドラ王太子が犯人なのか?

ジャーナリストの本能として、万智は取材を敢行するが、情報源のほとんどはラジオから流れるBBCのニュースばかり。

新聞社所属の記者時代とフリージャーナリストとして歴然とした万智は独自の取材源を求め、いわゆるトクダネ取材を敢行しようとするのだが…

その取材では、自身のこれまでのジャーナリストとしてのアイデンティティやジャーナリズムとは何だったのか?

事件、事象を執筆し、人に伝えることの意義、ふりかざされる正義は本当に正義と言えるのか?

これまで当たり前に考え、行動してきた万智のジャーナリストという仕事に対する使命感、ジャーナリズムへの信念の曖昧さが根底から揺さぶられる様は、米沢氏が我々読者の心の深淵にも投げかける強烈な問いでもある。

この辺りから、物語は更にスピード感を増し、万智が巻き込まれる事件、それを万智自身が解明しようとするミステリーとしての巧緻さも見事だ。

米沢氏は、ここで万智にミステリーの謎解きと、ジャーナリストとしての本分とは何か?という高度で厳しい命題を二つも課している。

外出禁止令が出て、満足に取材が出来なくなる中、万智は自分が信ずるジャーナリズムの手法と、伝えるべき内容を確立し、記事を書き終えた時、ミステリーとしての謎解きも解明される。

この二つの命題をシンクロさせて、万智と読者をまさに一心同体にし、ラストまで持って行く米沢氏の筆致は、さすがだ。

是非、ご一読をお勧めしたい珠玉の作品だ。

尚、米沢氏も「あとがき」で述べているが『さよなら妖精』とは内容的に連続しておらず『さよなら妖精』から読む必要はない。

そして、嬉しいことに主人公、太刀洗万智の『王とサーカス』後の活動記録と銘打って短編6編から成る新刊『真実の10メートル手前』が2015年12月21日、発売される予定だ。

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