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【書評】『朝顔の日』高橋弘希 第153回芥川賞候補作品!あらすじ・感想・レビュー

待望の新潮新人賞受賞後第一作!第153回芥川賞(平成27年上半期)候補ノミネート作 初出:新潮2015年6月号 あらすじ・感想・レビュー・論評

高橋氏はデビュー作『指の骨』で第28回新潮新人賞を受賞し、同作は152回芥川賞候補作品にも選ばれる等、現在純文学の世界で高く評価されている人物だ。本作でデビューから2回連続の芥川賞候補作となった。

今作『朝顔の日』は『指の骨』と同時期、つまり先の大戦の最中を時代背景に設定し、舞台を青森に移し戦中の結核病院を舞台に、結核に冒された妻を看病する主人公の周囲に蔓延る不穏な空気。常に「死」というものが付きまとう当時の結核病院於いて「生」あるものの「死」「死」の向こう側にある「生」を、見事な文体で書き切った作品となった。

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新潮 2015年 06 月号 [雑誌]


「新人賞より受賞後一作目が重要」というのは文壇に於ける定説でもあるが、デビュー作がいきなり「芥川賞候補作」となった高橋氏の受賞一作目、デビュー二作目当たる『朝顔の日』には文壇・出版界からも注目を浴びることとなったが、本作も素晴らしい作品に仕上がった。

デビュー作『指の骨』は、先の大戦の南方戦線で島に取り残された野戦病院の兵士達を描いたが、二作目もほぼ同時代を描き、今度は直接の戦地ではなく青森の山深い結核病院を舞台に設定している。


幼馴染でもある妻が結婚間もなく結核に冒され、義父の知人の居る結核病院に入院した。

時代背景は前作『指の骨』より少し前の日中戦争の只中であり、中国での戦線拡大による英米との関係悪化、夏には武力南進も国策として決定される等、少しずつ世間に暗い影を落しつつあった。

主人公の凜太も「徴兵検査」を受ける年齢となり、いつ兵隊に取られてもおかしくない世情だけに、幼なじみの早季との結婚を急いだ。

その半年後に凜太は「教育徴収令状」を受け取り入営をするが、戦地に送られる前、入営後70日程で虫垂炎を患い除隊。

三ヶ月ぶりに帰郷すると、妻は伏せっており病院で診察を受けた結果は「TB」つまり結核に罹っており、山深い病院へ入院することになった。

当時の日本は栄養状態が悪いためか、他の先進国と比べると結核による死亡率は高く「死の病」とも言われていたが、担当医はその先進的な考え方から「結核菌」はただの「菌」であり、死に至る怖ろしい伝染病ではないと強調する。

担当医が見せた妻の病理診断のための顕微鏡写真には、白血球や酵素に混じって「赤い糸屑」が写っており、それが「TB(テーベ)」と呼ばれる結核菌の細菌だ。

物語を通じてこの「糸屑」が何かしらの隠喩・暗喩といったメタファーとして頻出することになる。

青森の山深い地に隔絶された広い敷地を持つ「病院」で、妻 早季の看病をしながら、主人公の凜太は「死の深層にある生」生と表裏一体の死」というものを見つめながら物語は進行していく。

ちなみに表題でもある「朝顔」はこの新婚夫婦が小学生時代に実習で植えた朝顔が凜太が植えたものはすぐに枯れてしまい、早季が植えた朝顔は沢山の花を咲かせ、自分が枯らした分まで早季が咲かせている様な…と、快活だった妻の少女時代を回想するエピソードにも出てくる。

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主人公の凜太は妻の看病のために、山深い病院へ通うことが日常となっていく

前作『指の骨』でも見られた「死の深淵にあるもの」「死を覚悟した者が持つ特有の明るさ」「昨日まで元気にしていた者の突然の死」と言ったものが前作ほど直裁ではないものの、本作にも通底したテーマとして扱われている。

また主人公が医師から「血液型」を聞かれ、妻と異なることが分かり、主人公が精神的な支えだけではなく、もっと直接的、物理的に妻の役に立てないもどかしさ、無力感、微妙な距離感を感じてしまう辺りは、前作でも垣間見られた。

そして戦地中国へ出征している友人から、戦地の様子を克明に記した内容の定期的に届く手紙。

そこでも病で除隊となってしまった己の無力を暗に示している。

ただ著者の高橋氏は、主人公の感情の発露やストーリーの抑揚を抑えて表現しながらも、主人公の周囲に忍び寄る様々な不穏な空気感といったものは、読む者に確実にひたひたと感じさせるのだ。

戦時中の結核病院モノと聞くと読む者を身構えさせがちだが、淡々と進んでいく直接的ではない文体・表現方法に高い文学性、著者の世界観の描き方の巧みさを感じる

言い換えれば『戦争中で戦地ではないが、とある結核病院で患者もまた「死」と真剣に向き合い「死」と闘う人々を鮮明に描いた感動作!』と言った安っぽいコピーは本作には不向きなのだ。


著者の淡々としたストーリー進行と主人公の心象風景の描き方は、文体そのものの直截的リアリズムよりも、その事象をメタファーとして読む者の心の深淵に訴えかけてくる

前作では一部で批判のあった物語のエンディング、締めくくり方についても、今作には当て嵌まらないだろう。


三作目はどういう作品を発表するのか?高橋氏の高い文学性が今後どう発展していくのか?が楽しみだ。

(ゐ太夫お勧め本)

新潮 2015年 06 月号 [雑誌]

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(『指の骨』書評記事はこちら)
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